酒をやめる
酒をやめて5年になる。
以下、個人の感想です。酒をやめようと考えている人の参考になれば幸いです。
酒をやめるまでは毎日発泡酒500ml×2本と甲類焼酎を数杯飲んでいた。翌日二日酔いしない程度に飲むのが良いと思っていたので、焼酎で調整していたつもりだったが朝はいつも体調不良だった。そして夕方には朝の体調不調を忘れまた酒を飲むということを20年近く繰り返していた。酒を飲むのが生活の前提になっていて、健康診断の前数日だけ飲まないようにしていた。
今になって思うと、当時自分がアルコール依存症であると思っていなかった。
自分はまだ生活が破綻していないから依存症ではない。その気になればやめられる。しかし特にやめる理由はない。酒をやめると人生の楽しみが減る。酒を飲まない人生のなにが楽しいのか。酒を飲まない人の事をつまらない人間だとか、つまらない人生などと罵倒する。酒を飲まないことで人生を楽しみ損ねるような気がして、酒を完全にやめる事に何かの喪失感を覚えるような気がしていた。
そこで、平日は酒を飲まないとか家では酒を飲まないとか、一定のルールを設けて酒と付き合っていこうと思うようになる。最初の数日、数週間はなんとか自分の決めたルールを守ることが出来たが、だんだんルーズになっていく。仕事がうまくいかなかったとか、嫌なことがあったとか。逆に仕事がうまくいったとか、今日は頑張ったから特別、とか。そういうことを言い訳にルールを逸脱する。気がつくとルールは全く守らずに毎日酒を飲む生活に戻っていて、さらに悪いことにルールを設ける前よりも酒の量は増えている。ということを繰り返した。
単純に今日から飲まないと決心するだけではなかなかやめることはできない。自分の場合は幸い貧乏だった(今も)ので残りの人生で酒にいくら使うのかをざっと計算すると考えが変わった。
飲んでいた頃、酒にいくら使っていたのか正確にはわからないけど、仮に日額500円だとか1,000円だとすると年間の酒代はこのようになる。
- 500円/日: 182,500円
- 1,000円/日: 365,000円
そして残りの人生が40年の場合こうなる。
- 500円/日: 182,500円 => 7,300,000円
- 1,000円/日: 365,000円 => 14,600,000円
1年で36万円だと許容範囲な気がしたけど、残りの人生で1,460万となると少し迫力がある。ちょっとした金額だ。当時老後2,000万円問題というワードも話題になっていたが、酒をやめるだけでこの問題の7割が解消される。もうやめるしかないと思ったけど、それでも一生飲まないと決心することはできなかった。とりあえず2ヶ月やめることにした。2ヶ月も飲まないでいたら酒を飲んでこれまでの2ヶ月間を台無しにしてしまうことが嫌になりそのまま飲まないでいることにして今日に至る。
当初、酒をやめて数日は仕事が終わって帰宅してから寝るまでの時間をどう過ごせばいいのかわからなかった。退屈な時間が流れると、ふと酒のことが頭をよぎった。そんなときに家のどこかに酒が置いてあるとついつい手が伸びる、一杯だったら平気だろうと。
そういう事態を避けるため家には酒を置かない。そして絶対に買わない。ノンアルコールビールなども自分は飲まなかった。酒っぽいものをのんでいては酒を忘れることは出来ない。スーパーでも酒の売り場に近づかない。
当時はコロナウイルスが騒がれ始めた頃だったので飲食店に行くことはなかったので飲み会の心配はいらなかった。
また、特別な時間を大切な人と過ごす、ゆっくり過ぎていく大人の週末、のような雰囲気を打ち出した酒のテレビCMも危険だと思ったので避けていた。
つまり、今後の酒にまつわるコストを計算する、酒を持たない、買わない、酒の広告を見ない。を実行した。
酒をやめると見積もっていたよりも金が貯まる。
酔った勢いでのコンビニに向かい、ビール、乾き物、何かしらのホットスナック、場合によってはカップラーメンなどを買い込む。
そして、夜中のネット通販。 酒を飲むと、「前から欲しかったんだよな」と、必要かどうかも怪しい雑貨やガジェットをポチってしまう。
こうした細々とした無駄遣いが、積もり積もっていたのだろう。あるいは、コロナ禍の影響で生活習慣が変わり、外出そのものが減ったことも要因かもしれない。それだと酒はあんまり関係なくなっちゃうけど、どちらにせよ結果として出費は大幅に減ったようで、全く貯金出来なかった自分の銀行口座、証券口座に少しお金が存在するようになった。
酒をやめてしばらくしてから、ふと気づいたことがある。 酔っていないはずの昼間──シラフの時間帯ですら、自分の精神はどこかアルコールの影響下にあったのではないか、ということ。
以前の自分は、ちょっとしたことでイライラしたり、人の言葉に過剰に反応してしまったり。夜が近づくと、「飲んで気分を切り替えよう」となるが、飲めば一時的に気は紛れても、根本的な安心は得られない。むしろ翌朝は疲労と頭痛と自己嫌悪が押し寄せる。
酒をやめてからも、不安になることも怒ることもある。だけど波の立ち方が違う。コントロールできる。
経済的な余裕もこの「穏やかさ」に一役買っているように思う。今は、たとえ問題が起きても「まあ何とかなる」と思える。 酒をやめたことで生まれた経済的な安心感も、心の土台を安定させてくれている気がしている。
腹が引っ込み、体重が減った。自分は173cm 74kgくらいでお腹がだらしなくたるんでいたんだけど、酒をやめて2ヶ月経つ頃には腹は引っ込んでいた。6ヶ月後には体重が74kgから63kgまで落ちた。酒をやめた以外には生活は変わっていないはずで、むしろ全然食べなかった甘いものを週に何度か食べるようになったくらいだった。
会社の保健師の方が以前、自分が酒をやめた場合どのくらい体重が変わるかという試算をしてくれたことがあったが、その方の試算通りに体重が減っていった。その方が会社にいた間に酒をやめることは出来なかったけど、今とても感謝している。
二日酔いで半日布団で唸って過ごすこともない。あんなに無駄な休日の過ごし方はない。朝から晩まで頭がクリアだと、興味があることをやってみるようになった。
最初は英語を勉強した。数年前にIT部門に異動したが、自分が働いている会社のIT部門はメンバーがほぼ外国人なので英語が喋れないとけっこう辛い。当時自分はTOEIC700程度で、コミュニケーションを問題に感じていたので、とりあえずTOEIC900になるまで勉強することにした。
毎日朝出勤前にTOEIC向けの英単語帳を1冊完全に覚えるまで何度もペラペラめくり、休みの日に公式問題を解いた。単語を覚えるだけでもスコアは860まであがり、苦手だった文法問題対策をして930とることができた。その頃には職場でコミュニケーションの問題を感じることはあまり無くなっていたが、YouTube、映画、ドラマなどを字幕なしで見ると半分くらいしか理解できていなかったような気がする。それでも英語が多少わかるようになったことに気を良くして、Illustrator, Photoshop, Java, JavaScriptなどをやってみた。YoutubeやUdemyを見て手を動かす感じで。
自分でウェブサイトを作ってみると、色んな細かいことを自分で出来るようになり、これがけっこう楽しい。
振り返ってみると、酒を飲むことで自分の全ての能力を下げることで、人生をハードにしていたように思う。酒をやめて本当によかった。自分の人生で一番良い決断だったと思う。
自分は酒をうまく飲むことができなかったけど、酒と上手に付き合いながら自分自身をしっかりコントロールしている方々には、心から敬意を表したい。